ひとりで一箱古本市

◆ 一箱古本市

2005年に東京・不忍ブックストリートから始まった、とてもユニークな活動。お店の軒先をお借りして、「大家さん」の前で「店主」が段ボール箱ひとつ分の古本を販売します。

◆ 不忍ブックストリート

本と散歩の似合う街。
東京の東側、谷中、根津、千駄木を通る不忍通り。その界隈には個性的な書店や図書館が立ち並んでいます。他にもいろいろと、散策に出掛けたくなるようなお店もたくさんあります。

☞ <本と散歩の似合う街・不忍ブックストリート>ウェブサイト

◆ ひとりで一箱古本市

不忍ブックストリートの一箱古本市を参考に(などと大それた言い方は恐縮で、最大の感謝と敬意を抱き)、こともあろうかその一箱古本市をひとりきりで開催してしまおうという、少し無謀で寂しげな活動です。

※「一箱古本市」という呼称は、一定の条件の下、不忍ブックストリートさまよりその使用を認められています。

古書の時間と箱の中の無限

古書、あっさり言ってしまえば中古の書物です。
しかし、ただ古くて安いだけのものではありません。
世に出て人の手を伝い、時の経過に洗練され、古書一冊一冊はそれ自身に独自の歴史を刻んでいるのです。
これは新刊書には見られない特徴のひとつです。

もちろん古書の利用法、楽しみ方は人それぞれです。
価格面での有用性を考えただけでも十分に魅力かもしれません。
そこから一歩踏み込んだとして、書物に刻まれた歴史をどういう風に読み取るのかも各人の自由意思に委ねられています。

ふと手にした書物の持つ歴史は一年かもしれませんし、三十年、五十年の場合もあるでしょう。
ただ、刻まれた歴史の価値は表面的な数字だけで測るものでもありません。
読み手の想像力や感受性次第で、一年が永遠の時間に匹敵することもあります。

そんな悠久の歴史を持つ古書たちを段ボール一箱という限りある狭い空間に収めてしまうのです。
ところが、この限られた空間というのが非常に大事だと思うのですが、有限という条件の下にむしろ生き生きと、書物は独自の広大な世界を際限なく提供してくれます。

実のところ、そもそも無限とは、その概念がそうであることからしても有限の中にしか存在しないのではないかと以前から疑っています(話は逸れてますが)。
この一箱古本市の神髄はその逆説的な可能性の中にこそあるのだとさえ感じています。

永遠の宇宙を超えて対話する

あらかじめはっきり告白しておきます。
ここからは大言壮語です。

さて一箱古本市は、買い手と売り手の間に書物を挟んだいわゆる対面販売です。
考えてみれば昔の個人商店と同じ形式です。
今にして思うに、たとえば八百屋さんには八百屋さんの、魚屋さんには魚屋さんの、時を超えた宇宙というものが存在していたのではないかという気がします。

時を超えた宇宙とはなにか。
簡単に言ってしまえば、野菜やお魚さんたちです。
ある面では、野菜や魚は単なる商品です。
しかし、野菜には野菜の、魚には魚の歴史があり、それは単なる個体の話に留まらず、およそ生命が始まった一瞬間点にも遡ることのできる壮大な歴史です。

生命の始まりがすべての始まりではありません。
生命の歴史は宇宙の歴史の中のある一点より刻まれたに過ぎません。
そして、宇宙の始まりはきっと永遠の彼方です。

こうした解放的な視点を与えられた時、野菜や魚、そして古書までもが時空を超えた存在たるのです。

一箱古本市。

対面販売という個人と個人の対話の中で、時間を超え空間を超えた古書たちにまつわる談義に花を咲かせ、かけがえのない素敵な経験を共有できるなら、それはとても仕合わせなことではないでしょうか。

開催レポート ひとりで一箱古本市 京都やんちゃ村

cafe やんちゃ村さん。
お店の前のベンチスペースを貸していただきました。

京都伏見区、桃山の丘。閑静な住宅街の一角にたたずむ、癒しカフェです。
地元の人に愛されています。

▶ cafe やんちゃ村 ウェブサイト

おいしいコーヒーや食事はもちろん、ケーキやハーブティーなど、こだわりの味もいろいろと楽しめます。

「ひとりで」な感じが哀愁を誘います。
一月下旬ですが、穏やかな気温で助かりました。

閑静な住宅街。
実に閑静な住宅街。
休日はどっぷりと思索に耽るなど、周囲の雑音に邪魔をされたくないような住環境を求めるならここはオススメです。

静かな住環境ということは人通りも少ないのでは?

そんな野暮な質問をしてはいけません…。

ぴったり一箱。
ディスプレイの工夫で、なんとなく恰好がついています。

隣に腰掛けて店番をしようとも考えましたが、少し離れた場所からこそっと見守っていました。

本を手に入れるのはわくわくする経験ですが、本を手離すのは少しだけ寂しい感覚でもあります。

ここから旅立っていった本たちは、次の場所でどんな世界を広げるのでしょうか。