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映画を作るひと、映画を宣伝するひと、映画を上映するひと、映画を見るひと、映画を楽しむひと。

映画の周囲には多くのひとがいます。

映画を楽しむひとは、楽しいひとに違いない。
そんな思いを胸に、いろんな話を聞いてみたいです。

  ◇

映画好きのひとにもおもしろいと言ってもらえる、そして映画を見ないひとには見てみようと思ってもらえる、そんなインタビュー記事を理想に掲げ。

  ◇

ひとが集まり、ひとつのスクリーンで映像を共有する文化の奥ゆかしさまでも伝えられたら…なんて。

でも背伸びせず、そのひとなりの魅力を聞き漏らさないよう、丁寧な姿勢で耳を傾けていきたいです。

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シアターカフェ 代表:江尻真奈美

インタビュー:2015年5月27日
写真撮影:2015年6月6日

1: 静かならざる幕開け

シアターカフェ。
2012年4月、名古屋の大須にオープン。
その名の通りシアターとカフェをくっつけた、ありそうでなかったお店。
自主制作映画、アニメーションを中心とした上映を行っていますが、上映スペースの一般レンタル、カフェスペースでの作品展示など、幅広く活用できる場を提供するお店でもあります。

そしてここは、カフェ併設のシアターでもなく、シアターつきのカフェでもありません。
シアターとカフェが同じ空間に同時に共存する、なんともユニークで魅力あふれるコンセプトのお店です。

オープン3周年を迎え、そして新しい動きとして始まった「大須にじいろ映画祭」を終えたばかりの2015年5月27日、インタビューを目的にお店へお邪魔しました。
アイデアの源泉、ことの始まり、3年間のこと、これからのこと、シアターカフェのあれこれを知りたくて、代表の江尻真奈美さんにお話を伺いました。

  ◇

─ シアターカフェ以前、シアターカフェの3年、そしてシアターカフェのこれから。
  順を追った形でお話を聞いていきたいと思っています。

「年齢的なこともありますし、シアターカフェ以前がかなり長くなりますよ(笑。」

─ では、その長い部分はバランスよく端折ってもらって…。

「えー!端折るのー?」

─ い…いえ、やっぱり以前の部分は重要ですよね。

「そうですね、なぜこの場所を始めたのかという疑問に答えるならば、過去を紐解かなければならないということになります。
お店をオープンした時も、インタビューではそこの部分を散々聞かれました。
なので、毎回同じことを喋るのにも疲れたというか…。」

─ (これから同じことを聞く身としては)…。

「いえいえ、なんだか懐かしい感じです。」

─ 過去を遡れば、映画を見始めた幼少期の話から始まると思うのですが。

「いえ、それがですね、実は幼少期には映画を見ていないんです。
映画を見始めたのはすごく遅くて、実質的には社会人として働き出してからなんです。」

─ あら、それはまた。

「実家の母親が、映画館なんて行ってはダメというタイプだったんです。
地元の劇場が、一般映画と成人映画がくっついているものだったこともあり、行ってはいけないと昔から言われていました。
高校生の頃に集団デートした時、初めて行ってドキドキしたくらいです。」

─ それは意外な話ですね。

「でも映画館には行きたくって、ストレスは溜まっていたんです。
それで社会人になった時にタガが外れ、勢い余ってバーっと通うようになりました。」

─ 映画館へ行ったことがなく、でも自分が映画好きだったという自覚は?

「子どもの頃からテレビではしっかり見ていて、二大映画雑誌も購読していましたから。」

─ それでは非常に悶々とした子ども時代だったのでは。

「そうですよ、映画に関する知識はあったんですが、実際に映画館へ行くことはないという青春時代を送っていたわけです。」

─ テレビではどういう映画を見ていましたか。

「たとえば『太陽がいっぱい』だとか、渋めのものを見ていました。」

─ アニメなど、テレビだとバラエティーに富んだ映画を放送しますよね。

「アニメはほとんど見ませんでしたね。
父親が見ているものを一緒に見るという感じでしたので、男臭いものが多かったかな。」

─ それで、自分で働くようになってから一気に映画館へ通うようになった。

「そうです、俗に言う試写族という感じですかね。
夕方5時まで仕事、それ以降は試写会場へ足を運ぶという生活を長く過ごしました。」

─ もう映画ひとすじ。

「当時は劇場なら二本立てで見て、そして試写会でも見まくる、そんな生活です。」

─ ホームページの自己紹介欄にも、趣味は映画一本です、とありますね。

「でも旅行や買い物も好きでしたけど、まぁ人並みに(笑。」

─ ひたすら映画に浸っていたわけで、年間どれくらい見ていましたか。

「試写会を含めてですが、年間二百くらいは見ていましたかね。」

と、シアターカフェへ辿り着くまでの、江尻さんの映画遍歴はここから怒涛の勢いをもって始まることになります。
しかし、大人の諸事情的な理由からその内容にはオフレコなものも含まれていて、そして記事全体のバランスも考慮した上で、インタビューの体裁をここで一旦中断します。
そして彼女のユニークな遍歴を時代ごとに区切り、簡潔に列挙していきます。

「えー!やっぱり端折るのー?」という声が聞こえてきそうですが、ここは心を鬼にして。
でも、大事な事実は端折りません。
発表できない大人の諸事情や、これって映画好きどうしの単なる談笑では?という非常に冗長になってしまった箇所を大幅に省略するに過ぎません。

2: 怒涛の映画遍歴

さてその遍歴。
学業を終え社会人スタート、プライベートでは映画漬けの日々を送りつつ、映画とは無関係の会社にて勤労する。
主に社内報の仕事を担当していたが、やがて、もういいやと思う。
文章を書くことが好きだったこともあり、映画関係のライター、当時流行っていたコピーライティングの仕事をしたいなと空想しつつ、辞めまーすと言って、10年ほど勤めた会社をあっさりと去る。

─ 次の当てもなく?

「そうです、辞めまーすって言って(笑。」

退職後、少しの間アルバイトで食いつなぐ。
やがて、ヘラルド系列の映画館が主催するヘラルドシネクラブのボランティア集団に参加。
スタッフになるとフリーパスが入手でき、映画は見られるし、手作りの会報で好きなことを書けるし、ということで、会社を退職した時と同じ勢いのまま「やりまーす」と。

シネクラブでのボランティア業務の中、監督へのインタビューなどを経験。
あるインタビューの場にて、シネマスコーレの木全支配人と同席する。
その木全支配人から、あいち国際女性映画祭というものがあり、そこで女性スタッフの欠員が出る旨の話を聞く。
それを知ってすぐに「じゃ、私にやらせてくださーい」と言ってスタッフとなる。

─ な、なんとなく必然の流れを感じますね。

「そういう環境に自ら飛び込んでいったわけですからねぇ。」

愛知県女性総合センター(通称・ウィルあいち)の中で、県の外郭団体である事務局に嘱託職員として勤める。
事務局での庶務と、映画祭の実行業務に奔走。
ベルリン映画祭はじめ国内外の映画祭などにも足を運び、そこで人脈も広がる。

ベルリン映画祭などの体験を通し、海外にこれほどおもしろい作品があるにもかかわらず、日本に入ってくるものはほんの一部だと、改めて強く実感する。

「映画館で上映されない作品を広めたいという発想は、実はここからなんです。」

大好きな映画に関わる仕事なので毎日を楽しく過ごすはずも、大人の世界はいろいろある。

そんな時、シネマスコーレで人手が足らないというタイミングと重なる。
一年に一回だけ盛り上がる映画祭の仕事に携わっているよりは、という思いもあり…「こうなったらもう映画館に行きまーす」と高らかに宣言し、嘱託を打ち切りシネマスコーレに移る。
という、ごく自然な流れで劇場スタッフのアルバイトとして新しいスタートを切る。

窓口から映写、宣伝、広報など、業務の一から十までを教わり、それらを懸命にこなす。
支配人の責任下にあるお金の部分以外、映画館の運営すべてを学ぶ。

映画浸りで充実の時間を送っていたある日、当時まだ監督として駆け出しだった前田弘二氏の短編作品がシネマスコーレに送られてくる。
何気なく見てみるとすごくおもしろい。
それまで日本の作品をほとんど見ることがなく、頭では理解していたものの、ここにきて短編映画、日本の短編映画のおもしろさにただならぬ衝撃を受ける。
送られてきた前田監督の短編作品はシネマスコーレで上映実施。

「前田弘二監督との出会いが、ここシアターカフェの原点なんです。」

公私を分け隔てる必要もないような理想の職場ともいえるシネマスコーレで働くも、やはりここも大人の世界なのでいろいろある。
4年ほど勤め、やがて云々かんぬんあってシネマスコーレを去る。

─ 辞めるにあたって、次の当ては。

「決まってないです、もちろん。
だって、いつもそうですもん(笑。」

ちょうどそのタイミングで、名古屋市緑区大高のショッピングモール内にシネコンが新規オープン。
ミニシアターの内情はほぼ理解できたことだし、シネコンのことも知っておこうと思い立つ。

事実、ヘラルドシネクラブ時代から、自分の好きな作品を好きなように上映したい、そのためにミニシアターを作りたい、江尻さんはそんな思いを持っていた。
シネマスコーレを辞める際にも、もう自分でやるしかないなと感じていたということ。
その流れもあって、経験と勉強を兼ねる意味も含め、シネコンに飛び込む決意をする。
新規スタッフ募集にぎりぎりで間に合い、声高らかに「行きまーす」と手を挙げる。

新しい職場では、映写ができるということでそのまま映写担当として配属。
しかし、シネコンでの映写業務は想像以上に過酷を極め、映写室から一歩も出られない毎日が続く。
フィルムからDCPへの過渡期、ひたすら映写映写の日々を重ね、無茶な労働のせいで思わぬダイエットに成功。
ところが、当時買い換えた服が実は今ではもうまったく用をなさない…(これ、本来はオフレコ)。

シネコンで映写業務に奔走する毎日、江尻さんの中に温められてきた独立、自営の構想は少しずつ現実味を色濃くする。
そのシネコンを去ることになるおよそ一年前、緑子さんからあるダイレクトメールを受け取った。

  ◇

林緑子さん。
アニメーションテープス代表、シアターカフェの共同創始者・共同運営者でもある女性です。

ふたりのきっかけは、緑子さんが主催していたアニメーションの上映会へ江尻さんが参加したこと。
その後、あいち国際女性映画祭では女性アニメーターを紹介してもらうなどで、ふたりの関係は映画と言う共通点を通じ継続。

  ◇

ちょうどのタイミングで舞い込んできたのが、アニメーションテープス10周年を知らせるダイレクトメール。
そこですぐに緑子さんへ連絡を取り、自分の構想を打ち明け「好きな映画を好きなように上映できる空間を一緒に作りませんか」と持ちかける。
緑子さんの回答は「少し時間をいただく」というものでしたが、しばらくして「では一緒にやりましょう」と。

そこからふたりの開店準備期間が始まる。
江尻さんも、緑子さんもそれぞれ考え、いろいろなひとにも相談し、ふたりでのミーティングも重ねる。
多くの助言を参考に、上映スペースだけでは経営的に厳しいだろうから、カフェ併営で収益を確保しようという結論に落ち着く。

シネコンで働き始めて一年半。
いよいよお店を開店させられるというタイミングで「店を開くので辞めます」と宣言。
今度ばかりは、辞めまーす、というノリではなかったところにこれまでとは違う彼女の意気込みを感じます(と言うのはまったくの誇張表現です)。

─ (江尻さんの個人史を、予定時間を大幅に越えて伺いましたが)なるほど、そういう経緯だったんですね。
  カフェ併営という営業形態がアイデアを練りに練った末の到達点ではなく、経営的観点から出た実務的結論だったというのは意外でした。

「そんなもんですよー。」

─ そして、なんだかんだ大人の事情もたくさん通過しつつ、しかし映画ひとすじの江尻さん、ようやく念願のシアターカフェのオープンに漕ぎつけたわけですね。

「話せばあれこれありましたけど、私、映画の道ではぶれてないんですよアハハハハ。」

─ 確かに、上下の変動は大いにあったかもしれませんが、多分、横にはズレていませんね。

  ◇

ひと息ついてホットワインのおかわりをいただきました。

言葉を交わせば誰でも、江尻さんの底抜けに朗らかな性格を味わうことができます。

包み隠すということを知らない、いやむしろ包み隠すという言葉すら知らないのではと思えるほど、彼女はあっけらかんと愉快な女性です。
もっとも、そのせいでオフレコの時間が大量に発生したわけですが、それも彼女なりの愛嬌ということにしておきます。

ワインも楽しみ、インタビューのことはすっかり脇に置いて、のんびり映画談議でもしたくなるような気分になりました。
しかし気を取り直し、シアターカフェの本質に迫りたいと思います。

3: 悩み、その切実なるもの

序章ともいえるシアターカフェ以前の話を聞き終え、開業とそれから3年間の地点へようやく辿り着きました。
さてここからどのような話が展開されるのか…というところ、しかしいきなり問わず語りで江尻さん流、大人の諸事情が炸裂。

  ◇

非常に興味深い話ばかりでしたが、残念ながらここには収録できそうにないので割愛します。
その中に、省略するには惜しい話もあって、文章にできる形でそれをここにふたつほど。

実は、カフェとしての収益性は想定していたより随分低い。
カフェとの共存を志したものの、作品の上映中、カフェコーナーでは小声で喋らざるをえない、コーヒーミルを使えない、など思いもよらなかった弊害の多いことが判明した。

と、まったく明るくない話題で幕を開けた第二章、さてどう展開していくのでしょう。
大人の諸事情も一旦落ち着いたところで、もう一度気を取り直してインタビュー再開です。

─ オープン前、利用者層をどう想定していましたか。

「映画に馴染みの薄いひとたちですね、特に若い女性たちが見にきてくれるかなって。
なんといってもカフェだし。
しかし今から考えれば、こちらが選定する作品と、想定していた客層とは完全にずれていますね。」

─ インタビューをお願いしている身分で言うのもなんですが、江尻さんは映画やその周辺を知り尽くしているものの、経営のことはからっきしということですね?

「あはは、映画以外のことはまったくの素人です。」

─ 自主制作の作品を中心に上映する場となると、一般的な感覚からすればコアなお客さんしか来ないだろうと想像できてしまいますが。

「そうなんですよね、結果、その通りでしたから。」

─ まさか正反対の客層を想定していたとは驚きました。

「若い子たちが興味本位で見にきてくれるかなぁって。
そんな期待はお店をオープンさせてすぐにガラガラと音を立てて崩れました、あはは。」

─ それで現実を見て、なにか意識を変えていきましたか。

「変えていないです。
変えなければということも理解できますが、見てもらいたい作品を変えることはできないですもん。
一体どうしたらいいんでしょう?」

─ 今ちょうど、そこの問題をどう考えているのかと質問するところでしたが。

「だって、わからないんです。
本当にこちらが聞きたい立場なんですから。
ここでこうして3年間続けてみたものの、実はなにもわかりません。
もっと幅広く、多くのお客さんに来てもらうにはどうしたらいいのか。」

─ そうですね。
  思うに、まず、このお店の知名度の低い現実が挙げられるかと思います。

「そう、低いんですよね。」

─ その認識はあるんですね。
  では、どうしたら一般に広く知られることになるんでしょう…

「ねっ!」

─ いえいえ、ふたりで元気に「ねっ!」て声を合わせている場合じゃないですよ(笑。

「あは、オープンしてから今日までずっと、それが課題なんです。
作品が良質なのはきっと間違いないはずで、それを一体どこに伝えたら見てもらえるんだろうって。
どうしたらこのお店を認知してもらえるんだろうって。
そんなこんなで3年経ってしまったんです。」

─ 3年の実績を重ねた今、それでも客層の偏りはある程度仕方ないと思うことはありますか。

「いえ、思ってないですよー、全然思わないです。
なのでいつも反省の日々です。」

─ 利用者の視点からすると、コアな客層以外はもう割り切っちゃっているところがあるのかな、と。

「割り切ってないですー。
すべてのひとにどうやって届けたらいいか、方法がわかっていないだけで、その問題がこのお店を壁ひとつ越えさせられない原因でもあるんです。
こうして話している間にいいアイデアが浮かばないかなぁなんて思ってもいます。」

インタビューの調子は少し和らぎ、ここからお悩み相談の色合いも。
その雰囲気に甘え、インタビュアーとしての発言にもいささか礼を欠くようなニュアンスが出てくることになりますが、それは互いの信頼関係があってのことと自覚していますので、どうかご容赦ください。

  ◇

「昔からですが、作品の選択には自信があるんです。
なので、それを見ないなんて損しているって思うんですよ。
見ないあなたが損なんですよーって。」

─ もしかしたら、それが駄目なんじゃないですか。

「えへへ、上からものを見ているようなこの感じがですかね(笑。
でも実際、どこにどうアプローチしていけば見てもらえるようになるんでしょうか。」

─ あくまで映画がほどほどに好きな中間層としての意見ですので、コアな映画ファンには申し訳ない発言になるかもしれません。

「聞かせてください。」

─ 誤解を恐れずに言うならば、一般的なメジャー作品なら見るというひとたちにとって、特にこうした環境で楽しめるものは、まずは作品そのものではないと思うんです。
  当然のことではありますが、映画が好きなひとはとかく作品の本質的な部分に重きを置いて映画の価値を判断すると思います。
  でもライトユーザーは、自主制作映画に対してそうしたことへの興味の持ちようがない。

「それなら映画のどこを気にするでしょう、たとえば出演者とか?」

─ いえいえ。
  日常的にそこそこ映画を楽しんでいるのであれば、知らない監督や出演者にもそれなりの興味を示しますが、特に自主制作の作品であれば、普段そうしたものに慣れ親しんでいない方たちはまったく目を向けないと思います。
  制作サイドの名前を聞いても誰ひとり知らないでしょうし。

「では、映画のどこを見るのでしょう。」

─ いえ、作品を見るのではないと思います。
  ひとまず映画は置いておいて、第一に、お店に行ってみたいと思うかどうか。

「え、このお店自体?」

─ 映画好きなひとからすれば、そんなのは違うのになぁと思うかもしれません。
  でも、それこそウン十年前の昔には、映画館へ行くこと自体にドキドキする期待感のようなものがあったと思います。
  もちろん最終的には作品への期待もありますが、まず映画館へ出掛ける行為自体がたまらなく楽しかった。
  それと同じ感覚でこのお店を見てもらえるといいんだろうと感じています。
  あ、江尻さんは子ども時代に映画館へ行ったことがないというマイナス要因がありますね。

「映画館は意を決して行くところでしたからねぇ。
でも、そう考えると、カフェに行く感覚で映画を見られるとしたら、ここはむしろ気軽じゃないかしら。」

─ 多分、江尻さんが自分たちのお店のことを客観的に見られていないのかもしれません(失礼を十分に承知で言わせてもらっています)。

「と言うと?」

─ たとえば今日ですが、当然このお店を訪れたのは初めてのことではありません。
  きちんとアポも取って来ています。
  江尻さんのキャラクターもよくわかっています。
  そんな条件にもかかわらず、ここへ足を踏み入れるのに少なからず緊張したくらいです。

「どうして緊張するのかしら。」

─ うーん、店構えというか店の匂い、も理由のひとつでしょうかねぇ。

「威圧感がある?」

─ というより閉塞感かもしれません。
  常連になったひとたちだけに開かれたお店、あるいは一部の映画通のひとたちに向けたお店ではないかという雰囲気。

「やっぱりそうした空気は醸し出されていますかねぇ。」

写真撮影の日、カフェタイムにたまたま来店していたお客さん。
大須の案内マップを頼りにふらりと立ち寄ったとのこと。
こうしたお客さんが増えると嬉しいかぎりですね。

※掲載にあたり本人の許可をいただいています。

─ そして、あまり映画に親しんでいないひとたちにとっては、ここで上映するような自主制作の作品には興味のとっかかりがないんだと思います。
  それをうまく提供できていない。

「耳の痛いご指摘です。
ほんとのところ、見ないことには評価もできないという現実を考えると、とにかく来て見てもらわないと話にならないんですね。
つまり極端な話、実質的にはどんな作品を上映していても同じということになるんですよね、見てもらえないのであれば。
私としては、まだ発見されていないような素晴らしい作品を上映していきたいけれど、それが見られなければ作品の良し悪しは問題にもならない、これは大いなる葛藤ですよね。」

─ こうしたフライヤーひとつとってみても、細かいところまでは読まないと思います。
  誰が監督で、出演者が誰だとか、初めから関心を持ってもらうのは難しい話ですよね。
  なので、このシアターカフェに来るとこんなに楽しいことがありますよ、というアピールを前面に出す方法も模索していく必要があるのかもしれないですね。

「それはひとつ肝に銘じておきます。」

─ さらに、コミュニケーションの場としてのカフェ、という側面をもう少し強調してもいいかもしれません。

「映画観賞後の、制作者とお客さんとの交流だけではなく、ですね。
その話も参考にさせていただきます。」

4: きっと明るい未来

─ 3年を総括するとして、成し遂げたこと、成し遂げていないことを挙げるとしたら。

「成し遂げたことがほとんどないんです。」

─ それなりの目標を持っていたにもかかわらず。

「ええ、問題のひとつは、やはり常連客で客層が固定してしまったこと。
もちろん固定のお客さんはとてもありがたいことです。
でも横にももっと広がってほしいという目標を持っています。
それが到達できていないから、こういう状況(夕暮れシアターの時間帯に、お客さんがゼロ)なんだと思うんです。」

─ 焦りはある。

「満足できずにずっと悶々としています。
この仕事のひとつの特徴でもありますが、次の上映のことを考えて意識が常に先走っているんです。
振り返ったり、反省したりできず、前を見るしかなくて、いつのまにか3年経っちゃっていたという現実です。」

─ それでも、節目節目でなにか考えることはあると思うんですが。
  たとえば最初の1年を終えてみたところではどうでしたか。

「あー、1年経ったー。」

─ だけ、ですか。

「はい。」

─ 2年経って。

「なにも変わらなかったー。」

─ で、3年で。

「ほんとになにも変わらなかった―、あはは。」

─ いや実に江尻さんらしい節目ではある気がします(笑。
  ただ、満足していないということは、まだまだやりたいことがある。

「不甲斐ないと感じています、どうにかしたくて、こうして相談しているくらいですので…。
少しなにかを変えたくて、大須にじいろ映画祭を始めたというのもあります。」

─ 構想はいつ頃から持ち始めていたのですか。

「1年くらい前です。」

─ 思い始めて1年であれだけの映画祭を開催してしまう。
  新しいことへ簡単に挑戦できるのは江尻さんのプラスの性格だと感じます。

「そう言われると嬉しいです。」

─ お店の理想像を持っていますか。

「これ、というものはないですが、より多くのひとに映画を見てもらい、楽しんでもらえたらというのが一番の希望です。
そして具体的に直面していることとして、カフェの空間、この夕暮れシアターの時間をなんとかしないと経営的に成り立っていかないという切実な問題もあり、そこをどうにかしたい。」

  ◇

個人的には、夕暮れシアターという営業形態こそがシアターカフェならではと思っています。
しかし、大須の街は夜が早いという難点もあり、ほとんどひとが訪れないという実に惜しい現状とのこと。
お店の存在もしっかり認知され、通常の上映、カフェでの展示、夕暮れシアターなど、多面的な魅力を持つこの空間がさらに盛り上がってほしいと切に願うばかりです。

ここからしばらく江尻さんとの会話があちらこちらに話題を散漫させ、映画好きどうしの雑談兼お悩み相談が続きました。
収録できない内容ではありませんが、インタビュー全体が予定をはるかに越えた長尺になってしまいましたので重要度の観点から一部を端折ります。

  ◇

─ 今後のことも聞かせてもらえますか。
  もちろん遠い将来も見据えているんですよね。

「続けられる限りは続けていきたいです。
大須にじいろ映画祭も反響が大きかったので、これからもどんどん続けていきたいです。」

─ LGBTをテーマにした映画祭は中部地区では初めてですよね。

「でも、第1回は会場があまり理想通りではありませんでした。
17時までしか借りられなくて、夜の部がなく、見られないという人も多かったです。
次回は会場や時期も再考した上で開催したいです。」

─ あの映画祭は江尻さん自身の歴史を考えれば、辿り着くべくして辿り着いた結果かと思いますが、それにしても実際に開催してしまうのはやはりひとこと、すごいな、と。
  江尻さんには底知れぬパワーがあるんですね、きっと。

「どうでしょう、なにも考えずに突き進むパワーはあるかもしれません。」

─ ずばり、映画祭は全体として成功でしたか。

「みなさんにはたくさん褒めていただきました。
でも、私自身としては満足していないんです。
というのも、想定よりはお客さんが少なく、もっと多くのひとに見てもらいたかった。
なので、次を思ってあれこれ反省しているところです。」

─ 見てくれたひとからの反応はよかった。

「はい、悪いことは言われなかったですね。
客層もミックスされていて、いいバランスだったかと思います。
次回も期待してくれているという声も多く、その点には安堵しています。」

─ この勢いでこれからのシアターカフェも波に乗っていけるといいですね。

「でも今の私、映画祭を終えて燃え尽き症候群なんです。」

─ いや、がんばってくださいよ。
  このお店は映画人口の裾野を広げる重要な場所だと期待しています。

「ありがとうございます。
今後世に出てくるであろう制作者たちへの応援という側面もありますしね。
きちんと観賞料金をいただき、それを制作者に還元するようにしていますし。
こちらの努力不足で収益が少ない時には、お金は辞退しますなんて監督から言われてしまうこともあって情けないばかりですが…。
それでも、制作者の方々はみなさん手弁当で来てくれますし、観客からのフィードバックをありがたいと言ってくれています。」

─ ここでの距離の近さはシアターカフェという名にふさわしいですね。

「はい、制作者と観客を結ぶ場としてのカフェはしっかり機能していると自負しています。
あとはより多くのひとに来てもらえるかという問題だけです。」

─ 江尻さんの中で、ミニシアターとこのシアターカフェは同列の部類に入るものですか、それとも別のものですか。

「私はこれまで映画館しか経験していなくて、どうしても映画館のやり方をこの店にも当てはめてしまうところがあるんです。
ほんとは違うものであって当たり前なんですよね。
その違いを出せていないところは、自分の経営が下手なんだと思っています。」

─ ここシアターカフェはミニシアターの単なるミニチュア版ではない、これまでのどんなジャンルにも属さない唯一無二の空間だと評価しています。
  この名古屋にそんなお店があることを誇りに思っています。

「ありがとうございます。
これまでのこと、これからのこと、自分の中でもまだはっきりと答えは出ていませんが、どうにかこうにかがんばっていきますね。」

─ 今日は非常に長い時間、そしておもしろい話をたくさんありがとうございました。

「こちらこそ、ありがとうございました。」

  ◇

予定時間を大幅に越えたインタビュー(と雑談、とお悩み相談)を通し、江尻さんの中に燻っている熱意を強く感じました。
3年という時間は短いようで長く、長いようで短いものです。
彼女のその熱意がやがて花開き実を結ぶことは容易に想像でき、シアターカフェはまだまだ発展途上の魅力あふれる空間だと再認識することもできました。

シアターカフェの更なる発展を心から願っています。

そして、インタビューさせてもらったから言うのではなく、江尻真奈美さんの魅力も、林緑子さんの魅力も、ここに書き切れるものではないくらいに素晴らしいです。

もしまだお店に訪れたことがないのであれば、一度足を運んでみてください。
決して映画通だけに開かれた空間ではなく、映画やカフェにほんの少しの興味があれば、誰でも気持ちよく楽しむことができます。
初めはいくらか緊張するかもしれませんが、お店を出る頃には帰るのがもったいないくらいに感じられているはずなので。


─ 了 ─